大熊孝先生(新潟大学名誉教授,かわ・まち計画研究会副会長)の著書「洪水と水害をとらえなおす 自然観の転換と川との共生」(農文協プロダクション)が第74回毎日出版文化賞を受賞し,12月10日にホテル椿山荘東京で贈呈式が行われました.おめでとうございます.
大熊孝先生の受賞スピーチ(抜粋)
水害が起こるたびに私と同年代ぐらいの人たちが寝たきりのまま溺れて亡くなっているということが,特に2000年以降頻発しております.河川工学を専門としてきた人間としてそういう状況を見て,私は本当に悔しくて今回の本を書かせてもらいました.いま,「民衆の自然観」がなくなって,「国家の自然観」だけで物事は進んでいるということを基本として書きました.
「国家の自然観」と言われても皆さんにはあまりぴんと来ないかもしれません.今から47年前に私が新潟に初めて行ったときに驚いたのは,信濃川からも阿賀野川からも川の水が抜き取られ,発電のためだけの川になっていたことですね.それでいて阿賀野川沿いの磐越西線や只見線,信濃川沿いの飯山線は電化されていないんです.いまだに電化されておりません.川の水を使って発電した電気はどこに行っているか.基本的に東京に来ているんです.かつて,信濃川も阿賀野川もサケやマスが無数に遡上していました.河口から290㎞上流の松本でも数万尾のサケが取れた記録があります.安曇野の湧水地帯は鮭の一大産卵場でした.そのサケ・マスを食料として縄文時代から川沿いの人々は文化を築いてきたわけですが,その生態系は壊滅しました.私は川の恵みはまずその川の沿川の住民たちが最初にもらうべきだと思います.しかし,今は電力の形でそれが地域を飛び越えて中央集権で東京に来て,山手線の電車を動かしている.地域の人間のことは考えていない.こういう構図がいたるところにあるんですね.今まで自然を破壊し収奪してきたものを,どうやって返していけばいいのかということが今問われているわけです.そういうことをきちっとやっていかないと本当の意味での自然との共生というのはできないのではないかなと感じております.今回の本はそういうことを踏まえて書かせていただきました.
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毎日新聞社記事「毎日出版文化賞贈呈式 受賞作5部門の著者・出版社に賞状」2020年12月10日